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エッセイ『日の当たる家』

 

私は自分の家が大好きだ。このマンションの一室に住むようになってから、すでに七年が過ぎようとしている。気に入り過ぎて、もうここにずっと住んでいたいとさえ思っている。

この部屋の素晴らしさは、冬が近づいてくると、より感じるようになる。近ごろは朝晩も冷え込んできたので、友人知人や仕事の訪問先での会話では、

「もう朝が寒くて、布団から出るのが嫌になってきた」

という話が必ず出る。私も一応同意はするものの、実はまったく関係のない話だといつも考えている。だって私の部屋は、朝が一番暖かいのだから。十一月に入った最初の日曜日も、少し汗をかいて目覚めた。

遮る建物がないから、寒くなってくると、朝の低い位置からの太陽が、わが家の遮光カーテンをまんべんなく照らす。すると部屋の中は温室のように暖かくなる。異常な寒がりの私には、とてもありがたい現象だ。

夜の二十二時現在、外気は十三度なのに、室温は二十五度だ。午前中はもっと高く二十六度になっていた。昼間温められた部屋は、夜になっても温かい。暖房器具も必要ない。

そして真冬になっても八畳用のオイルヒーターだけで足りてしまう。日中はオイルヒーターすら必要のないくらい太陽の日差しで十分足りている。

一日に何度か窓を開けて十分ほど空気の入れ換えをしているが、冷えるのは一瞬で、既に暖まっている壁や床が、元の温度に戻してくれるようだ。

ちなみにこの部屋は、畳で換算すると二十七畳以上ある。本来であればまったく足りない熱量だ。なぜこんなに暖かいのかと考えると、日当たりのみならず、近年のマンションの高気密性にあると思う。

ベランダの窓にも隙間はまったくないし、サッシも外気温を伝わりにくくする素材が使用されている。

ガラスは、二枚重ねのペアガラスになっているから、部屋の空気が窓に冷やされにくい。そして、玄関側も内廊下になっていてホテルのようにジュータンがひかれている。

しかも廊下も温度調整が行われているから、夏は涼しく冬は暖かいという、まるで住宅販売のキャッチコピーのような構造になっている。

こうなってしまうと、気温の低い時期は、他人の家に遊びに行けない。特に築年数の古い一軒家なんてぜったいにダメだ。あの寒さは外に居るのと、ほとんど変わらないと思う。

暖房器具で暖を取っていても、外気温に影響を受けやすい家は、いつまで経っても暖まらないし、暖房器具から遠ざかれば、どこからか冷たい空気の流れを感じる。しかもそのような家では、廊下やトイレは外に居るのとかわらないぐらいに寒い。

そんな私も二十代の頃、初めてひとり暮らしで借りたアパートは、築二十年近い、木造アパートの一階だった。小さな玄関を入ると、すぐに三畳のキッチンスペースがあり、お風呂とトイレがあった。

その奥に七畳の和室があって、すべてが手に届く範囲に収まっているような狭い部屋だった。狭いだけなら別に構わないが、許せないのが寒さだった。

玄関に目張りをしても、冷たい風は入ってくるし、エアコンではまったく寒さをしのげないため、家に居るあいだガスファンヒーターをずっと稼働させていた。

するとなんとか寒さはしのげたが、窓や押し入れの中に流れ出るほどの結露が起きて、除湿剤が大量に必要になった。そして、最初の冬越えは、除湿費用とガス代で恐ろしい金額になっていた。

その後にも木造アパート一回、築年数の古い鉄筋コンクリートのマンション二回の引っ越しを経験したのちに私は、新築マンション以外に住むのを止めた。

近年のマンションならば、暖房器具をフル稼働させなくても暖かいと知ったからだ。

私の場合、同じ広さならば暖房費で機密性の高い鉄筋コンクリートマンション住まいが出来てしまうわけだ。とくにこの部屋はとても暖かい。お日様は本当にすごい。

そして私の生活サイクルが変化したことによって、ここは、より最高の部屋となった。会社勤めをしていた頃の私は、通勤エリアで、帰宅が夜遅くなってしまっても、人通りが多くて治安が良いことが第一条件だった。

そしてそういった場所はたいてい食事をするにも困らないし、オフィス街で土日は閑散として静かだったりする。

日当たりや景色が悪くてもどうせ寝るだけなのだから、ビル街であってもさほど気にならなかった。

しかしフリーランスで仕事をするようになってからは、家に居る時間が長くなった。打ち合わせに出掛ける日も可能な限り、同じ日に設定するので、一日一歩も外に出ないこともある。

この寒い時期に、外の寒さを知らずに自宅で仕事ができる環境は本当に最高だ。

そしてここは、暖かいだけではない。景色が最高で、いわゆるオーシャンビューになっていて、夕刻ブルーモーメントがほぼ毎日見られる部屋に住めるなんてそんな幸せなことはないだろう。

ここに住むまでは、ブルーモーメントは天気の良い日のみに希に見られる自然現象だと思っていた。

しかし海がみえるところでは、ほぼ毎日真っ青な空が見られる。それは本当に、青くて深くて空に吸い込まれていきそうになる。

駅からは少し遠いいが、出掛けるのは多くて週に三回だ。三回くらいであれば、駅までの遠さなんて気にならない。もう本当にこんなに景色が良くて素晴らしい部屋はなかなか探しても見つからないと思う。

ただし少し欠点がある。冬場はポカポカして暖かい部屋も、夏場は、暑くて地獄になる。そう、この部屋は、温室を通り越して、サウナになってしまう。

特に朝は凄い。太陽が昇ってきた瞬間から暑い。だから夏場は毎日、暑くて目が覚めて、睡眠不足になると友人達に話すと、それを聞いた友人達は、決まって、

「冷房のタイマー設定をして、寝ればいいじゃないか」

と言う。確かにその通りだと思うし、私もそうしたい。しかしこの部屋の空調には問題がある。マンション内のどこを歩いても、快適に全館温度調整が行われている素晴らしい空調設備だと思う。

その素晴らしい空調は、半期に一度冷房と暖房の切り替え期間がある。その日を境に、冷風しか出ない温風しか出ないという空調になる。

もちろん各々の部屋にも天井から空調設備の吹き出し口ついているので調整できるようになっている。調整温度は十八度~二十八度まである。そしてAUTO、LAW、HIGHと選択ができる。

しかし、冷房の時期であれば、二十五度に設定しても、十八度にしても、出てくる風の温度は変わらない。風量が少し変化する程度だ。

おそらくその吹き出しからは、同じ温度の風が出てきている。温度を下げれば少し多めに冷たい風が出てきて、温度を上げれば風が出てくる量が減らされるだけの調節なのだと思う。

ということはどうなるかというと、睡眠時に二十八度設定にして眠ると寒くて風邪を引く。だからせめて、朝の五時半ぐらいから冷房がかけられるようにタイマー設定をしたいのだが、そんな賢い機能は備わっていない。オンタイマーもオフタイマーもない。

斯くして私は、夏場は寝ている内に熱中症になりそうな温室部屋に住んでいる。

本来人気があるはずのオーシャンビューの部屋は、どうやら不人気らしい。

更新する度に家賃が勝手に下がって、いまでは七年前の価格より九千円も家賃が下がった。しかし私はこの部屋がとても気に入っている。

エッセイ『日の当たる家』

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